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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(あ)1432号 判決 1960年12月23日

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

但し、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

第一、二審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人金綱正己の上告趣意について。

所論は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権をもって調査するに、当裁判所の判例(昭和三四年(あ)第一一九〇号同三五年二月二三日第三小法廷判決、集一四巻二号一七〇頁)によれば、公職選挙法二二一条三項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定にもとづく正式の立候補届出または推薦届出により候補者としての法律上の地位を有するに至った者をいうのであって、未だ正式の届出をしない、いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解すべきところ、原判決の支持した第一審判決は、判示第一の一の(1)、(2)において立候補の正式届出前における選挙人に対する金員の供与並びに供与の申込の事実を認定しながら、これに対する法令の適用として同条三項一項一号を掲げたのは、法令の解釈適用を誤った違法があり、右誤りを看過した原判決もまた違法あるに帰し、刑訴四一一条一号にいう判決に影響を及ぼすべき法令の違反があってこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よって原判決及び第一審判決を破棄し、同四一三条但書、四一四条、四〇四条により更に判決する。

第一審判決の確定した事実(自己に当選を得る目的であったことは判文の趣旨から認められる)に法令を適用すると、被告人の判示第一の一の(1)、(2)の所為中事前運動の点は各公職選挙法二三九条一号、一二九条、罰金等臨時措置法二条(一の(2)については更に刑法六〇条)に、金員の供与、供与の申込の点は各公職選挙法二二一条一号、罰金等臨時措置法二条(一の(2)については更に刑法六〇条)に、判示第一の二の所為は公職選挙法二二一条一項五号、罰金等臨時措置法二条、刑法六〇条に各該当するところ、判示第一の一の各事前運動と金員供与、供与の申込とはそれぞれ一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条に則り重い金員供与、供与の申込の刑に従い、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条に則り犯情の最も重いと認める判示第一の二の金員供与の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役三月に処し、なお情状により刑の執行を猶予するのを相当と認め、刑法二五条一項を適用し本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予すべく、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条一項本文を適用し第一、二審及び当審における訴訟費用の全部を被告人に負担させることとする。

よって裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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